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オールドローズによる庭づくり
はじめに
狭い場所に密度高くが庭の宿命です。オールドローズは全般的にクライミングローズより小型で細枝性、スモールガーデンには打ってつけのつるバラなんです。一季咲の品種が多く、剪定で咲かせるタイプではなく、自然樹形あるいは枝の誘引をして咲かせるタイプのバラです。植付ける位置を誤ると剪定を過度に施す状況に陥ります。枝を誘引する分、植付け位置と開花させる枝の長さの位置関係を的確に判断してください。
オールドローズは幾つかの樹形に区分する事ができますが、多くは樹形図 4、5、12 の樹形を持つと思われます。
オールドローズをアーチに使う方が増えています。アーチに適性を持つ品種が多く存在するためです。特にアーチに適した品種ではカーディナル ド リシリューを筆頭にガリガローズに集中しています。またアルバローズのマダム プランティエもアーチに使いたい品種です。もし枝が多すぎたら、メッシュフェンスをサイドに置き、組み合わせた連続した形を作ります。
一季咲であることが、庭にとってマイナスである事は無く、大切なのは樹形的適合性です。その意味ではもっと見直して使っていきたいのがオールドローズです。繰り返し咲のシュラブローズに押され、最近は悲哀の感がありますが、百年以上の長寿を保つ品種で有ることをお忘れなく。良いバラだけが生き残る事を想えば、如何に優れた素質を持つかが判ります。扱う人の使いこなしができないだけです。
4 の樹形を持つオールドローズ
4 の樹形を持つオールドローズは、株元から斜め上に主幹となる枝を伸ばします。この枝は太く四方へ拡がる様に伸び、途中から枝先を湾曲させて下垂し、中心部が盛り上がるように成長するタイプです。アルバ セミプレナが典型的な姿です。盛り上がる様に枝を伸ばし、湾曲部頂点付近から下垂した枝先にかけ、翌年の開花が起こります。品種によっては無剪定でも効果的な開花状況を得る事ができますが、開花位置の調整と成長基点の管理を行う為の剪定を施します。
本来は四方へ拡がる枝を壁面等の平面や構造物等に当てはめる訳ですから、大株に成長すれば枝に余裕が出るのは当然です。剪定で養分の集中を図り、集約的なより良い開花状況へと導きます。大~中輪種ほど細い枝を間引き、太い枝を主とします。しかし、表現が優先しますので、細い枝でもむやみには切らず、最後の最期まで(芽出し直前)保留としておきます。アイディアの閃きには時間が必要、でも切るのは一瞬です。株立ち状に枝を伸ばし、長く伸びる小枝に開花が起こりますので、この小枝を自由自在に使いこなしたいものです。
小輪はこの樹形に少なく、考え得る限り探しても思いつくのは ? オールドローズには小輪種がほとんど無いのです。ブラッシュ ダマスクや紫玉、これも中輪ですよね。
使いこなすためには枝を誘引する場所が多く必要で、住宅の外壁面や窓周辺など、四方に広がる枝を平面に収めうるだけの面積が必要です。あるいは壁面から連続した構造物を考案し、小枝を使いこなす為に活用しましょう。平面では単調になりがちな場面、非常に有効です。包み込まれる様な戸外室の雰囲気を演出すると効果的です。
5 の樹形を持つオールドローズ
この樹形の特徴は半自立であること。枝は細くしなやかで半ばほふくします。枝を長く伸ばす品種が多く、短くて 3m その倍は枝を伸ばす品種もあります。前者がカーディナル ド リシリュー。後者がシャルル ド ミルです。何れも横広がりの樹形です。ベイサルシュートは斜めに伸び始め、直ぐに湾曲し下垂を始め、ほふくする如く伸びます。高く登る枝が無いので、独立した構造物。アーチや大きなオベリスク、ポール仕立てなどに適しています。
バラに溢れるスモールガーデンを、四季を通じて美しく保つ。成長と造形という相反する性質を考えるとき、この条件を満たすのが 5 の樹形を持つオールドローズです。特にこの樹形を持つ品種は、密度高く濃密な香りに包まれた空間造りには最も適した品種群と考えます。
5 の樹形を持つ品種は細枝性が多く、細いわりには長く伸びますので、剪定に迷う事が多いと思います。枝先を下垂させた場合は剪定は必要最小限、これで咲きます。水平方向なら枝先は切り戻し、誘引して咲かせたい位置へ鋏を入れます。枝数が多く誘引する場所が狭かったら、太い枝を残し細い枝から順に切り戻します。段カット状態にする事も有ります。ステムの短い品種は枝の密度を高め、集中的な開花状況を演出すると効果的です。枝数は多く残して剪定位置の調整で開花状況を作る様な感じです。
12 の樹形を持つオールドローズ
直線的な枝の伸びを特徴とする品種群です。自立し、枝の長さは 3m ~ 4m 前後。まっすぐ伸びた枝を冬には横に倒して翌春花を咲かせます。一度開花した枝は翌年の二度目の開花は少なく、大抵の場合は開花が済んだら開花した枝全体に渡って切除し、新たな枝の伸長を促します。枝の途中からサイドシュートが伸び出していたら、迷わず残します。
まっすぐ伸ばして冬に倒して開花。単純明瞭な樹形と開花習性です。この図式にぴったりなのが低いフェンスや住宅の外壁面などです。フェンスに咲かせる場合は、ベイサルシュートやサイドシュートの伸張を計算して、目立たなくまた効果的に枝の保護ができるような配慮をします。フェンス沿いに庭木を植え、伸びてきたシュート類は庭木に軽くゆわえて保護します。庭木の変わりに強度が有り、庭として必然性が保てる「もの」ならいとわず使います。
ウイリアム ロブやジェニー デ モンテフォートなど、モスローズの銘品にこの樹形が多くあります。剪定は中輪咲のため、枝先は鉛筆の太さ程度まで切り戻し、養分の集中を図り良花と集約的な開花状況を得るようにします。他にアーチやトレリスに応用が効きます。枝の強度は有るものの、枝の充実度合いは柔らかな特徴があります。過度の強剪定を加えると枝が枯れ込む傾向が強いので、そうならぬように、植付ける位置取りには充分な配慮をしましょう。
この樹形を持つ品種群は、花の美しさを愛でる傾向が強いと言えます。風景を作る能力は大きくは有りません。花の観賞価値を求めた植付け位置の工夫も必要です。遠景ではなく、できれば目の近くで咲かせたい品種群です。
オールドローズとは
オールドローズの咲かせ方
オールドローズと一括りで呼ばれていますが、総称であり樹形や性質を表すものではありません。オールドローズはほとんどつるバラとして扱います。根拠は四季咲き性の無いことです。枝が伸びすぎない特徴を持ち合わせています。庭造りには絶対に欠かせぬ品種群です。
四季咲き性を持つオールドローズはチャイナ系の品種とその影響の強い品種群のみであります。四季咲き性を持つ分、枝は長く伸び難い特徴を持ちます。しかし、一部品種は咲きながら大きく成長し、小型アーチに最適な「四季咲きのアーチ」を作り出す事が出来る、その様な品種も含まれます。
一季咲きオールドローズ
四季咲き性を持たないオールドローズはつるバラとして使います。伸びすぎずコンパクトな樹形を持つ品種があり、スモールガーデンに適したつるバラだと思います。小型のアーチやトレリス、フェンスや壁面など、ほとんどのシーンで使える素材です。香り立つ春のお庭を演出するならこの品種群です。
どう活かすかがポイントとなります。一季咲品種はガリガ系やアルバ、モス、ケンティフォリアなど葉が繊細で特徴的に美しい品種があり、また剪定を必要としない程花付きの良い品種も有ります。特にスモールガーデンを高密度で飾る場合には適任であります。
枝の誘引が必要とするなら、なにか誘引の対象たる物が必要となります。建物やフェンス等に沿って植栽がなされていれば、麻ヒモで枝を結き形作ります。それに見る人の視点と誘引する枝の関係も大切。葉の美しさと花を満喫するには枝を視点より下に置く必要が有ります。香りを楽しむには顔を近づけられる、つま先の入る場所が必要とされます。
お庭の中で単独または密集状態で植栽されている場合は、メッシュフェンスやトレリス状のもの、アーチ等をアクセントとして用い、立体感を出す工夫をします。また、狭くとも人の歩く通路が必要です。通路の存在により、見る人の親密感を増幅させる効果が出るからです。バラを単独(一人ボッチ)で咲かせるより、人が傍に寄り添って咲く風景造りが肝要かと。
比較的枝を長く伸ばす品種もあります。風景を作るに優れた品種も有り、特定の品種にこだわる必要は有りません。花は咲けば何れも美しく、使いこなしのアイディアは花を眺める都度、新たな物となります。
「人間工学を」とは申しません。人と植物の位置関係を見直すことが新たな庭造りにつながります。眺めるより使って楽しめ、植物と友好関係を構築できる庭造りが目標です。
「人間、こだわりを持ったら終わりだ」と思うのは歳のせいでしょうか。バラを見て長所を活かして新たな美を創造することが、庭造りの面白さだと思います。眼前に見える風景のどこを手直ししたらどんな風景になるのか、美を見出す心理状態をコントロールする事が楽しくもあります。まぁ趣味ですから。
花の命は短くて、が惜しまれます。対策は量を多くすること。冬に強剪定を施せば花の質は向上します。ンが、花の量を減らす事にもなります。バランス感覚を持つことが大切です。
剪定の有り様はつるバラ一般と同じです。前年の開花枝に再び開花するか否かが冬剪定のポイントとなります。一季咲オールドローズは剪定の明確さにおいて非常に性質をつかみ難い事が、強い剪定に現れている様に感じます。本来多くの品種は無剪定で開花します。庭園内で効果的に開花させるには目的にあった剪定が必要と言うだけで、剪定せなあかんと強迫観念を抱く必要は有りません。
前年の開花枝を残して結果を見るか、シュートのみを残し開花させるかは、先例が無ければ判断し難いのが実情です。枝の誘引角度と枝先の太さで判断するしか方法はありません。しかし古い細い枝で開花する品種も有り判断は容易ではありません。結局は全ての枝にチャンスを与える事となるのです。
シュートや新しい枝は無剪定枝先下垂で開花は得られます。お庭では開花位置の調整が必要ですし、集約的に開花させる必要も生じます。咲かせたい位置へ枝を誘引した後、枝先の位置を剪定により決定します。
一度~数度開花した枝は多少切り込み枝先を太く強くして結果待ちをする事が、最も無難な方法と思います。やはり観察と経験則を身に付ける事が最も大切な事柄と思います。オールドローズの自然樹形を理解すると、使いこなしは格段に上達します。
そのためには人の手の入らない自然な状態の姿を観察することが知識を深める為の近道です。私はドイツはボーデン湖に浮かぶインゼルマイナウにあるバラ園に出かけ、野ばらの小道を観察しました。二十数年前のことです。世界で唯一無剪定で原種のバラを栽培する場所でした。樹形図のヒントはこの時の印象があったから出来た事です。
ドイツまで出向かなくとも今は十和田湖畔にある、『花鳥渓谷』で観察できます。インゼルマイナウのバラ園を範として作られた(規模は数倍、日本一の大きさです)野ばらの小路を持っています。下の写真は花鳥渓谷で撮影したものです。 自然な樹形を見られる国内唯一の小路です。※残念ながら現在閉園されています。

