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薬剤散布について

薬剤散布のポイント
バラの薬剤散布の一番の目的は、黒点病を防ぐことにあります。黒点病を予防するには、葉裏へきちんと薬剤をかけることがポイントです。
薬剤は目的の違うものを数種類あわせて撒くことができます。例えば、黒点病・ウドンコ病などの殺菌剤と殺虫剤を混ぜて一度に済ませることも可能です。
定期的に散布しているにもかかわらず病気が出るという方へちょっとしたポイントを挙げてみました。
1. 展着剤
薬を撒いていても展着剤が入っていなければせっかく撒いた薬がすぐに流れてしまいます。必ず加えるようにしてください。雨などで流れにくい物を使うと薬散の回数を減らすことにもなります。
最近では展着剤も色々と種類が出てきています。近くに JA や専門店があるようでしたら問い合わせてみてください(当園で販売はいたしておりませんがお気軽にお問い合わせください)。
2. 薬剤の混ぜ方
撒き終わったタンクの底に薬剤が溶けずに残っているようであればきちんと混ざっていない証拠。効き目が落ちてしまいます。
バケツに 1cm 弱の水を入れ、展着剤・薬剤を入れ良くかき混ぜます。良く混ぜたものを規定分量の水で薄めてください。柄の付いた小さなホウキなどを使ってかき混ぜると良く混ざります(後述『薬液の作り方』参照)
3. 圧力
圧力の強い噴霧器を使うことで薬剤を思った場所にかけることができ、撒いている時間も短縮できます。ノズルも長いものが使えるので、つるバラにもきちんと薬剤をかけることができます。
ノズルが長いと噴霧口が撒いている人から遠くなるので、噴霧した薬液がかかることも少なくなります。
薬液の作り方

1. バケツと柄が付いた小さなホウキを用意します。ホウキはコシのあるものを選びます(こちらは溝掃除用)。

2. バケツに水を少量入れる。入れすぎると混ぜにくいので量は 1cm 弱くらい。使用する展着剤・薬剤を規定の分量入れる。

3. ホウキで薬を良く混ぜます。水和剤が多いほど溶けにくいので念入りに混ぜます。混ざれば規定の分量の水で薄めてできあがり。
侮れない展着材の働き
病害虫防除の基本は、予防に徹すること。特に黒星病には、効果的な治療薬が少なく、発病が求められた時点ではかなりの被害を覚悟しなければなりません。そのため徹底した予防が求められます。
バラの黒星病予防薬として用いられる専門薬の数は限られます。ダコニール、マネージ、オーソサイドなどが主に使われます。使用できる薬剤数に限りが有っても、病気は待ってはくれません。そこで注目されるのが、展着剤の組み合わせ方です。発病のメカニズムに適した効果を持つ展着剤を加えることで、相乗効果が得られ、予防効果を高める事が可能です。
黒星病発病のメカのズムとは、木村和義さんの名著、「作物にとって雨とは何か、農文協」が参考資料として優れています。バラの新芽や若葉が水を弾く性質を持っていることは既にご存じと思います。この性質は葉の表面を覆っているワックス層に由来します。このワックスの皮膜が、葉齢と共に剥げ落ち、菌の進入しやすい状態になってしまい、黒星病の発病がはじまるのです。
ワックス層は主に降雨により、葉の表面から奪われます。温室やハウス内のバラに黒星病の発病が少ないのはこのためと思われます。減少したワックス層に代わる皮膜を人為的に補充すれば、発病のリスクを軽減できるのではないかと言うのが発想の原点です。
農協や大手園芸専門店では、多種の展着剤が販売されています。機能性展着剤と相称されています。この展着剤の中には、固着性と称される分類に入る製品があります。アビオン E、kk スティッカーなどの展着剤が代表的な製品です。葉の表面に皮膜を作り、菌の進入を防げば良いわけです。上記の様な展着剤を予防薬に加用することで、すこしでも菌の進入しにくい状態を作る様に努めれば良い結果が得られるのではないかという発想なのです。
発病は降雨によりもたらされますので、降雨の前に予防的に散布するのが最も効果的となります、もし、急な降雨で散布が雨上がりになった場合は、予防薬に治療薬、サプロールかラリーなどを加え、散布する事も考えられます。菌の進入初期の段階で有れば、効果を期待できると考えられるからです。
うどん粉病は新芽や若葉に多発する病気です。空気伝染です。バラの新芽や若葉はワックス効果を持っていて、水を弾きます。特効薬を用いるにしろ、水で希釈すれば患部には届かず弾かれる確率が非常に高いのです。このため、うどん粉病は治しにくいと思われるのです。対策は、黒星病とは違う能力を持つ展着剤を用いること。現段階で最もうどん粉病に対し効果の得られやすい展着剤が「まくぴか」です。この展着剤の特徴は、濡れ易い性質、滲むように展張する性質を持つことです。
使用するとすぐ判りますが、均一な状態で葉の表面に薬剤が付着する様になります。水を弾きやすい新芽にも、水玉にならずしっかりと展張します。うどん粉病の薬剤は優れた製品が多く、患部に付着さえすれば治療効果は非常に高く、うどん粉病で悩む必要は少なくなる様に感じます。
「まくぴか」の効果は、撒きムラを作らない事と、使用する薬剤量の低減効果が有ります。発病の主因とは別に、防除効果の程度を左右するのが、散布の際に起こる散布のムラです。均一な散布を心掛けても、噴霧器の能力と、薬剤の葉への付着しやすさが問題になり、ムラがでてしまうのです。「まくぴか」の優れたところは、均一散布に近い状況が得られるところです。
うどん粉病と黒星病の展着剤が異なる事がお分かりでしょうか、展着剤の能力は発病の有無や程度、専門薬の効果まで左右するほど、生殺与奪権を持つと極論する人もいます。今一度展着剤を見直してみてはいかがでしょう。
購入先は農協(JA)か大手園芸店で扱う可能性があります。店頭に無い場合は、取り寄せなどになります。いずれも専門知識を持った店員さんに声をかけ、相談に乗って頂くのが賢明かと思います。時として見解の相違から、理解し難い状況に立ち入る場合があります。この様な場合は、お店を変えて見て相談してみては如何でしょう。
うどんこ病の防除
黒星病が水の存在で感染が拡大するのに対し、うどんこ病は空気伝染で感染します。うどんこ病の特徴は若葉や蕾などの新梢の柔らかな部分にのみ感染を見るところにあります。ちょうど黒星病の裏返しの様な部分があります。

うどんこ病の症状
うどんこ病は新梢 = 生長点に発生します。発生が重なると深刻な成育障害を受けることとなります。葉に発病すると葉が裏側に軽く回り込む様になります。進行すると柔らかな新芽や葉に白く粉をかけた様な症状が出ます。
うどんこ病の薬剤散布
黒星病と異なる点は治療薬が存在する事です。発病初期に対処すれば確実に治す事が出きます。しかし優れた治療薬の存在にも関わらず煩わしい病気であるのは、これも保護皮膜、ワックス効果に深く関わりが有ります。
バラの新芽部分が黒星病に感染しにくいのは、ワックス効果を持つ新芽部分が水を弾くからです。この為優れた薬剤が有ってもうどんこ病が治らない理由は薬が患部に付着しないからです。なぜ付着しないかと言えば水で希釈した薬剤は新梢の持つワックス効果により弾かれてしまうからです。どの様な薬剤でも水で希釈する以上、結果は同じです。
ワックス効果を持つ新梢の患部に薬を密着させる役割を負うのが展着剤です。展着剤を加えた薬剤は噴霧器による一吹きで新梢の患部に薬剤を密着させる効果を持っています。またこの様な状態を作らなければうどんこ病を治す事はできません。うどんこ病に於ける展着剤の働きとは、薬剤の生殺与奪権を持つ程重要な存在なのです。
予防薬の種類
ミラネシンが抗生物質として非常に効果の高い薬剤であったのですが、残念ながら製造販売が終了してしまいました。同じく抗生物質にはポリオキシンがありますが、効果はミラネシンには及ばないようです。
トリフミンは現在市販されているうどんこ病予防治療薬では最も効果の高い専門薬です。サルバトーレは黒星病にも予防効果を持つ薬剤で、うどんこ病にも高い予防効果を有します。バイコラールは黒星病の項でも取り上げた効果が高い広範囲の殺菌剤で、うどんこ病にも卓効を示します。バイレトンはうどんこ病の専門薬で、安価で予防薬として優れています。カリグリーンはカリ分を含む専門薬で安全性の高い薬剤です。予防薬として用います。
展着剤
うどんこ病に対しての展着剤としては「まくぴか」の製品名で市販されている展着剤が最も優れております。葉や茎の表面に滲むように展張する効果を持っており、薬剤の汚れを最小限に押さえる効果と散布ムラを作りにくい特性も併せ持ちます。薬液使用量も低く抑えられうどんこ病対策には理想的な展着剤です。しかしバラや花木類での登録を取っていないので、現時点での使用は認められていません。
スカッシュは新芽部分に付着する力と皮膜を作る能力に優れ、予防薬と併用すると効果的です。ニーズもうどんこ病予防薬と併用すると効果が高いとされる展着剤です。アプローチは広く使用される展着剤で、浸透移行性を持ち総合的展着剤として評価が高い剤です。
予防薬と適切な展着剤を組み合わせる事でうどんこ病は確実に押さえ込む事ができます。しかしうどんこ病の厄介なところは感染しやすい新梢が常に生長を継続している事です。薬剤散布の間隔が仮に 10 日間隔で有った場合、散布ののち新たに伸長した部位はうどんこ病に対し無防備状態である事が想定されます。次の薬剤散布までの間に感染する可能性と危険度は、厳密に考えれば高いのです。
賢い展着剤選び
様々な機能を持つ展着剤があり、目的に沿った使い分けをする事で高い相乗効果を得る事ができます。黒星病の皮膜効果とうどんこ病に求められる展着効果、双方の性質を併せ持つ展着剤で優れた展着剤であれば心配はありません。私は機能の異なる2種類の展着剤を併用しています。
展着剤は濃度に対して注意も必要で、濃すぎると薬害を生じます。特に複数の展着剤を組み合わせる場合は、各々が異なる特性を持つ物を組合せます。展着効果の高いもの同士を組み合わせると場合により薬害を生じます。
展着剤による薬害は散布した株の葉全体に及び、全滅状態になります。散布ムラを防ぐために行う行為が最悪の状態を招く場合も有りますので、展着剤の濃度と機能を重複させぬよう配慮をしておきましょう。
黒星病の防除
生命維持に欠かすことのできない葉を失う病気であること、これが黒星病の怖さです。
古くからバラは難しいと語られ続けている最大の原因が黒星病です。特に四季咲き性原種、庚申バラが黒星病に対しての抵抗力を持ち得なかった事が大きく災いしています。他の系統にも程度の差はありますが黒星病はあまねく宿命としてバラの身に降り注ぎます。

黒星病の症状
黒星病に犯された葉は表面に不規則な黒斑を生じます。感染を症状として肉眼で確認できるのがこの段階からです。しかしこの時点で黒星病症状の進行過程としては最終段階に近く、治療は不可能とされています。やがて葉は黄変し落葉します。
枝の伸びにくい四季咲きバラが葉を失う病気に感染すると深刻な成育障害を受けます。しかも黒星病にたいして有効な治療薬は現在ありません。従って生育期間中は予防薬を定期的に散布し感染予防に努める事、これが現在では最も有効な防除方法であると考えられます。バラの薬剤散布の基本は予防に徹する事であり、その主要因が黒星病であると極論できます。
発症のメカニズム
植物の葉の表面にはワックスの様な薄い保護膜があります。特に新梢の若葉に顕著に見られます。降雨の後バラの若葉が水を弾く様に見えるのはこの皮膜の存在によるためです。しかしこの保護膜は葉齢が進むにつれ剥がれ落ち、葉の表面から失われるようになります。
若葉から充実した盛んに光合成を行う働き盛りの葉に達すると葉の表面は保護皮膜が落ちた状態で有ることが多いのです。保護皮膜の失われる主原因は降雨で、雨が葉の表面から皮膜を徐々に落としてゆくのです。
葉表面からの感染
葉の表面の皮膜(保護膜)が失われた部分からは黒星病の菌の進入がおこり易くなります。黒星病は葉裏からだけではなく葉の表面からも侵入するのです。この事が判ったのは木村和義先生の著書「作物にとって雨とは何か」により徐々に明らかになってきました。
温室やビニールハウス内など、雨水の当たらない場所でのバラの営利切花栽培で黒星病の感染例が少な事が知られていますが、これは保護膜が雨により失われ葉の表面からも黒星病の侵入が起こり得ることを証明しています。
葉裏からの感染
気孔の集中する葉裏からも菌の進入はおこります。降雨による土からの跳ね返りにより黒星病の菌が葉裏に付着し、感染が引き起こされます。
長く黒星病防除の基本はマルチングであるとされています。敷きワラを施し跳ね上がりを防止するのは、葉裏の気孔などからの菌の進入を防ぐ事を目的としています。黒星病の菌は土中に潜みます。土中のバラの葉片などに付着越冬すると考えられています。これが降雨時に土から飛散し直上の葉裏に付着し感染が起こるとされます。
薬剤散布による防除
治療薬の使い方
黒星病に感染した葉の治療薬として効果を現す薬剤は現在有りません。一応の治療薬としてサプロール乳剤とラリー乳剤があります。しかし肉眼で症状の確認ができる葉に対しての治療効果は無く、発病した葉の周囲にある健全に見えるが感染の疑いが持たれる葉に対しての治療薬で有ると断言できます。あくまで初期症状の葉に対しての治療薬であります。
感染初期は肉眼で確認できませんから、治療薬であっても使い方、タイミングが難しいと思います。黒星病は降雨によって感染が引き起こされる。であれば降雨の前に予防薬の散布を施すのが最も効果的な防除方法となります。そうは言っても突然の降雨や予定もあるし、散布が降雨後になることがあります。
降雨前よりは黒星病の感染の危険度が高いと判断できますので、降雨後は散布液に予防薬に黒星病治療薬を追加しておくのも良い方法です。予防薬の使い方多くの場合、黒星病対策は予防薬の定期的な散布を基本として行います。健全な状態の葉に保護目的で予防薬の散布を行います。発病が確認されないと、多少の後ろめたさを禁じ得ませんが、発病した葉に対しての治療が無い事、葉を失う病気であることを考えれば予防薬の散布を定期的に確実に実施する事が最も効果的で且つ薬剤散布の総量を減らす事につながります。
薬の種類
予防薬
フルピカ、ダコニール、マネージ、バイコラール、サルバトーレ、オーソサイド等が主な予防薬です。病耐性菌の発生を防ぐため、使用回数を守り、同一の薬剤の連続散布を控える様にします。フルピカは現時点の最新薬で高い予防効果を持つ最も信頼置ける薬です。全生育期間中使用可能です。新薬のため高価です。
ダコニールは高い効果があり春秋の冷涼な季節には黒星病予防の主力です。マネージも予防効果に優れ全期間使用可能で、特に夏場に主力となる薬です。バイコラールは総合薬で黒星病にも予防効果を持ちます。少雨の夏には効果的です。
サルバトーレはうどんこ病薬ですが黒星病にも効果があり、少雨時期に使います。オーソサイドは黒星病の予防薬として古くから珍重されましたが、新薬と比べると効果はやや劣る感じです。少雨時期に使います。
治療薬
サプロールは治療薬として定評がありますが発病葉には無力で初期治療薬として認識します。
ラリーは治療薬としての最新薬で、効果が高く初期治療薬として優れています。
展着剤を適切に使う
黒星病は葉の表面にあるワックス層が降雨により失われることが発病の一因とも考えられます。このため、黒星病の予防薬散布時には、葉の表面から失われた皮膜を人為的に補う様な考え方が最も効果的な防除方法と考えられます。
機能性展着剤と総称される展着剤が市販されております。このなかでも皮膜を作る作用を持つ展着剤があります。一般に植物性ワックスと総称されますが、この効果を持つ展着剤を予防薬に混ぜ散布すると高い予防効果、相乗効果を得ることが出来ます。失われた皮膜を人為的に作り菌の侵入を防ぐのです。
機能性展着剤の種類
アビオン E の主成分はパラフィンです。ワックス層を失った葉に皮膜を作りますが、新芽に付着する能力は低く他の展着剤と併用すると効果的です。
スカッシュの主成分はソルビタン脂肪酸エステルでパンやアイスクリームにも使われる身近な素材、皮膜を作る能力が高く新芽にも付着します。
ニーズは最新の展着剤で、陽イオン界面活性剤です。物質の表面はマイナスに帯電しているため皮膜形成と固着性能力に期待されます。黒星病、うどんこ病薬と併用します。
上記 3 種の展着剤が皮膜を作る効果に優れています。症状や状況に応じた予防薬と展着剤との組み合わせを行います。何れも植物性ワックスと呼ばれる展着剤で上手に予防薬と組み合わせることで黒星予防に大きな成果を上げることが可能です。
他の機能性展着剤
KK ステッカーは固着性を持つ展着剤、雨による薬剤の流亡を防ぐ効果があります。
アプローチは浸透移行性を持つ展着剤です。薬剤の粒子を細かくして汚れも防ぎ、治療薬と組み合わせると効果的です。
散布時期と散布方法
降雨によって黒星病に感染するリスクが高まりますので、散布は降雨の前後が最も効果的です。降雨前で有れば予防的散布。降雨の後であれば感染の疑いも考えられますので、予防薬に治療薬を加え散布する方法も考えられます。治療薬を予防的散布に用いるのは本来の姿ではありませんが、初期段階で疑いの芽をつんでしまえば安全であるとも言えます。
季節的要因も発病に大きく関わってきます。梅雨や秋雨は無論、昼夜の気温差による夜露も黒星病の原因になります。秋口に黒星病の多発を見るのはほとんど夜露で葉が濡れた為に起こります。また、台風時には強い風に乗って黒星病の菌が広範囲に飛散します。高く伸びたつるバラのシュート上部の葉から黒星病の感染発病を見るのはこの強風に起因すると考えられます。風通しの良い場所にバラを植えないと病気になるが定説ですが、私見ですが実は風当たりの良い場所ほど黒星病の感染頻度が高いと思うのです。